１．REIT全体市況

5月末の東証REIT指数（配当なし）は、前月比+1.47%の上昇と、米中貿易摩擦に対する警戒感から下落した株式相場と対照的な推移となった。世界的に長期金利に低下圧力が掛かり、国内長期金利もマイナス圏で一段と下落。これを受けて、東証REIT指数は10日から7営業日連続上昇し、20日終値は1,951.62ポイントと、直近の高値である3月27日の1,932.83ポイントを更に上回り、2016年4月以来3年1ヶ月ぶり高値を付けた。月末に掛けて株式相場の続落を背景に下落に転じたが、31日終値は1,916.92ポイントと前月を上回って終了した。
米中貿易摩擦が深刻化するなか、世界的にリスク回避の動きが強まり、米国の利下げ期待や日銀の追加緩和期待を背景に、国内外のREITに資金が流入しやすい環境にある。
東証が発表する投資部門別売買動向によれば、外国人投資家が２ヶ月ぶりに買越しに転じ、金融機関と併せて東証REIT指数の上昇を牽引した。

銘柄別に見ると、全63銘柄うち48銘柄が上昇。サムティ・レジデンシャル投資法人（SRI）、三菱地所物流リート投資法人（MEL）、スターアジア不動産投資法人(SAI）、さくら総合リート投資法人（SSR）が前月比+5%超と高い上昇率を示した。SRI及びMELは同一用途の中で相対的に分配金利回りが高く投資口価格の割安感が強い点、SAI及びSSRは両社の合併提案が浮上した点が上昇要因となった。

個別銘柄の動きでは、インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人、産業ファンド投資法人、ラサールロジポート投資法人、積水ハウス・リート投資法人（SHR）と、4件の公募増資が発表された。3月は0件、4月は1件と増資が少なかったが、好調な投資口市況を背景に５月は再び活発化した。
なかでもSHRは調達額390億円（予定）と、大規模な増資となった。SHRは2018年5月に同一スポンサー傘下のレジデンスREIT「積水ハウス・レジデンシャル投資法人」と合併し、その後初めての増資となる。スポンサーの積水ハウスが開発した物件を取得し、資産規模は5,275億円、REITの中で10番目の規模に急成長した。規模拡大に伴いポートフォリオが強固となったことから、一部の物件を賃料固定からパススルーに変更し、収益のアップサイドも追求する方向。

一方、物件売却の動きも相次いだ。日本リテールファンド投資法人が「イトーヨーカドー錦町店」をスポンサーグループの三菱商事都市開発に売却する。テナントの中途解約が可能であったため、売却によってテナント退去リスクが後退するとともに、売却益44億円を3期に分割して計上する。
ラサールロジポート投資法人は増資に併せて物件を入替え「ロジポート平塚新町」を売却する。売却益6.8億円を2期に分割して計上する。
インヴィンシブル投資法人は「スペーシア恵比寿」「ロイヤルパークスタワー南千住」とレジデンスを相次いで売却。鑑定価格を大幅に上回る価格で売却し、売却益計111億円を計上する。
不動産が高値で取引されるなか、売却益の確保を優先とした売却事例も見られる。売却益によって分配金や内部留保を積上げ、将来の収益安定性に繋げるとともに、売却代金を新たな物件取得に活用し、ポートフォリオの新陳代謝を高めていく。インカムゲイン（賃貸収入）の長期運用を前提としたREITであるが、市場環境によってはキャピタルゲイン（売却益）も追求した結果、運用期間が1年～2年の短期間で売却するケースも見られる。

10日、スターアジア不動産投資法人（SAI）のスポンサーであるスターアジアグループが、さくら総合リート投資法人（SSR）に対し合併を目的とした提案を発表した。事前にSSRが同意していない点や、発表後にSSRの資産運用会社が提案に反対意見を表明したことから、REIT史上初の敵対的買収に発展する可能性がある。当面の動きとしては、スターアジアグループがSSRの投資主総会招集許可の申し立てを行ったのに対し、関東財務局がどのような判断を下すのか、一方、SSRがどのような買収対策を講じるのかが注目される。

＜市況データ＞

＜東証REIT指数と予想分配金利回りの推移＞　　（グラフは2017年6月～2019年5月の24ヶ月間） 





2．個別銘柄データ
 

予想利回り算出方法：年換算予想分配金（当期予想分配金＋次期予想分配金）／投資口価格

但し、 決算期が年1回の銘柄：　年換算予想分配金（当期予想分配金）／投資口価格

※予想分配金が未発表の場合、直近期の予想分配金を使用する 

※実質運用日数が変則期間の場合、年換算に修正する 

※利益超過分配金は分配金に含めて算出する