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マーケットコラム

再度顕在化したREITの減損リスク/関 大介

2008-11-04

関 大介


 ニューシティ・レジデンス投資法人(NCR)は破綻した翌日の10月10日に前期(2008年8月期)の業績予想を修正し、投資家への分配金を行わないことを公表した。
業績の修正要因は、
① 9月末の物件売却損失(12億円)
② 10月末取得予定であった不動産売買の違約金(55億円)
の二点を特別損失(損失引当金)として前期に計上することに拠る。
 発生時期はともに当期(2009年2月期)だが、NCRは破綻したため監査法人との協議の上、前期に計上することにした。
これに伴いNCRの前期(2008年8月期)は、J-REITで初となる「会計上の損益」と「税務上の損益」の大幅な差異が発生することになった。
具体的に上記①・②の損失は、発生時期が当期であるため、前期費用とは税務上認められない。従って税務上の利益は18億円<font size="-1">(※1)</font>である一方で、会計上は49億円<font size="-1">(※2)</font>の損失が発生した状態になっている。

J-REITは、法人税等の課税を回避するための要件として「税務上の利益の90%以上を配当する」という法律上の規定が用意されている。
従ってNCRが法人税課税を回避するためには、税務上の利益である18億円をベースとして少なくとも16億円超(90%)を投資家に配当する必要があるのだ。しかしNCRは、破綻により債権者への支払原資を確保するため投資家への配当を行わず、結果として法人税等を9億円支払うことになる。
J-REITが上記の法人税課税を逃れるためには、税務上の利益を元に配当することになる。しかしこの配当は「利益を超える配当」になるため、正確には投資家の出資金の払戻しとしての扱いが適用され、投資家の購入価格に応じた売買益の計算が必要になる。
また会計上の利益を超えて配当できる金額はその決算期の減価償却費が限度額となっており、NCRのような巨額の損失計上には対応できないのだ。

このようにJ-REITにとって会計上と税務上の損益の差異は、投資家にとって極めて大きな影響を与える事項となる。
この点はJ-REIT市場が開設以来の問題となっていたが、トップリート投資法人の保有物件のテナントが退去通知を出したこと<font size="-1">(※3)</font>で具体的に焦点が当たるようになった。
NCRの破綻に伴い再度この問題が意識されることとなったが、不動産市況の悪化が深刻な現状では、J-REIT投資に関する極めて高いリスク要因と言えそうだ。
例えば、商業施設のテナントから期末近くに解約予告を受け取った場合、当該物件は物件売却が間に合わず減損処理の対象になる可能性が高い。
この場合、減損損失は税務上費用ではないため会計と税務の収益差異発生の要因となる。

J-REITは、全銘柄の当期利益の平均は24億円でしかない。従って平均的には5億円以上の物件が減損対象となると、少なくとも減損損失が2.5億円以上となり、税務上と会計上の損益が90%以上異なる<font size="-1">(※4)</font>ことになるのだ。
この問題は、テナントの代替性が低い商業施設(物流、ホテル含む)だけではなく、稼働率低下で収益率の低下が顕在化し始めている地方のオフィスビルにも波及する可能性がある。

株式市場以上に乱高下が激しくなっているJ-REITにとって、安定的な分配金だけが投資家を市場に戻す最大の要素である。
従って会計上の利益で配当することによる法人税の課税が回避できるように、早急に制度を改善すべきであろう。
もちろんこの場合には減損対象となる物件を選択した資産運用会社に対するペナルティ条項(例えば、当該物件により生じた運用報酬を投資法人宛に支払いことを前提に法人税課税を回避する等)を用意すべきと考える。



<font size="-1">※1:2008年4月22日時点の業績予想値
※2:上記※1の当期利益から①・②の損失を控除。但し業績予想修正のプレスリリースによる法人税等の課税額918百万円から実行税率が40%として逆算すると税務上の当期利益は23億円弱(2,295百万円)となる。
※3:イトーヨーカ堂東習志野店でテナントのイトーヨーカドーが解約通知を出したが、最終的には35%の賃料減額で決着した。
※4:税務上の利益は2,400百万円、会計上の利益は2,150百万円(2,400百万円-2,150百万円)で、会計上の利益は89.5%になる。従って会計上の利益以上の配当を行う必要が生じる。</font>



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