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マーケットコラム

J-REIT初となる私募化TOBの背景と影響(2)/アイビー総研 関 大介

2021-05-14

関 大介

1. TOB価格の引き上げ

今回は、前々号にて予告した通り、4月2日に公表された外資系のスターウッド・キャピタル・グループ(SCG)によるインベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人(IOJ)に対する全投資口を対象とした公開買付(TOB)について、その後の経過と影響について記載する。

IOJ側は4月15日に本TOBに対する意見表明を留保するとした上で、SCG側にTOB期間の延長と本TOBに係わる質問書を提出。これに対しSCG側は4月23日にTOBの期間延長を拒否し、質問書に対する回答を行った。

回答を受けてIOJ側は同日に金融庁などに本TOBの禁止または停止の命令を裁判所に対して申し入れることを内容とする申入書を提出した。裁判所に対して申し入れを依頼する理由として、IOJ側は主として、本TOBに対して応募しなかった投資主のスクイーズアウト(端数投資口になることで、持分に応じた金銭の交付となる)が予定されているが、投信法上は想定されておらず認められないことを挙げている。
更に5月6日には、IOJ側は本TOBに対し反対の意見を行うと共に、スポンサーに対し本TOBに対抗する買付の要請を行った。IOJ側のプレスリリースに拠れば(※1)、スポンサー側は対抗買付けを実施する意向があるとしている。

SCG側は、IOJ側が反対の姿勢を明確にしスポンサーに対して対抗買付を要請したことを受けて、本TOB価格を当初の20,000円から21,750円に引き上げた。この価格引き上げは、本TOBを公表した4月2日以降、IOJの価格が当初TOB価格を上回って推移したことも影響していると考えられる。
また当初は本TOBの成立条件を全投資口の2/3以上としていたが、55%強に修正した。これはETFなどのパッシブ運用の投資主が存在するため、IOJが上場している中で本TOBに応募できないことを考慮して変更している。
一方で、本TOB期間は当初の予定通り5月24日までとしている。従って前述の裁判所に対する申入れが実現しない場合には、本TOB期間の最終日に当たる5月24日に成否が明確になりそうだ。



2. 既存投資家との対話がより必要な市場へ

J-REITは一般の事業会社とは異なり、会社独自の製品開発など将来の収益を大幅に飛躍させる事業体にはなっていない。また従業員を雇用しない仕組みになっているため、従業員保護という「名目」も反対意見とすることができない。
更に本TOB価格は、IOJの上場来の平均価格(14,526円※2)を大きく上回るものとなっている。またIOJの価格が本TOB価格を上回って推移していた時期は2014年6月の上場以降、コロナショック前の2019年9月から2020年3月初旬だけであった。
つまり多くの投資家は、本TOBに応じることでキャピタルゲインを実現できる状態になっている。加えて本TOB価格は、不動産の含み損益を反映した1口当たりNAVも上回っている。少なくとも投資家から見て、積極的に本TOBに対して反対する理由がない状態とも言える。
従って、本TOBがJ-REIT市場全体に与えるプラスの影響は、既存投資家との対話を継続的に行っていく必要性を銘柄側が強く意識する契機になる点と考えられる。
少なくとも既存投資家の1/3以上が各銘柄の運用を評価し、キャピタルゲインではなく長期的なインカムゲインを重視することでTOBに反対するという状態を維持する必要があるためだ。

(※1)インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人による5月6日付「公開買付けに対抗するための買付け要請に関するお知らせ」
(※2)IOJの上場(2014年6月2日)から2021年3月31日までの終値平均

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