2015年12月18日

【前編】不動産と金融の相関性分析から今後の不動産市場を予測する

Japan REITセミナー 講師:川口有一郎氏

アベノミクスによる金融政策や、日銀の量的緩和によって回復を叫ばれるようになった日本の経済状況は、不動産マーケットにどのような影響を与えてきたのでしょう。また、アメリカの量的緩和からの脱却や日本の消費税増税を見据えた対策など、金融政策が様々な転機を迎える近い将来において不動産はどのような影響を受けるのでしょうか。金融政策と不動産市場の過去の相関性を通して、これからの不動産市場の動向を川口有一郎氏にお話いただきました。

早稲田大学大学院ファイナンス研究科 ファイナンス研究センター所長の川口有一郎氏をお迎えしての今回の講演。日本橋で昼の時間の開催ということもあり、不動産に関係する業界の方が多く、仕事の一環として参加されている方も見受けられました。セミナーの開始前と終わった後には、会場の中で参加者同士が名刺交換をしている姿も散見され、業界人同士の交友の広がりも、このセミナーの大きな収穫の一つと言えそうでした。

アベノミクスが不動産マーケットに与える影響について

川口有一郎氏が今回議題として最初にあげたのは、「金融政策が不動産マーケットに与える影響」です。まずは金融政策と不動産市場が密接にリンクしているという事実を一つのグラフを用いて示してくれました。1993年6月から2014年6月の日本の首都圏の中古マンションの価格指数と、アメリカの住宅価格指数、日本の経済力とも言い換えられる潜在成長率(OECD)の指数を折れ線グラフにしたものです。世界の不動産市場は1位がアメリカで2位が日本なので、この2ヵ国を分析すると世界の不動産市場が分かります。この3つの折れ線によるグラフで2つのことが見えてきます。

まず1つ目は、日本の住宅価格指数と潜在成長率は同じパターンの折れ線になっており、リンクしていることが分かります。ここから言えることは、日本の中古マンションの価格が上がらないと日本経済の実力は上がらないし、逆もまた然りということです。川口氏は「日本全国の住宅価格とまでは言わないが、首都圏の住宅価格の引き上げが日本の経済再生にはとても重要」と考えています。アベノミクスによる金融緩和は金利を下げ、不動産価格のインフレをもたらしました。しかし、不動産の価値を決める住宅やオフィスの賃料に着目するとその限りではありません。1995年に東京のオフィス賃料が半分になって以来上がっていないことは、日本の政策が後手に回っていることを示しています。長期的な上昇を目指すのならば、現在の金融政策からのさらなる転換をどう行い、どのように金利を上げることができるのかがポイントになってきます。

2つ目に、同じように住宅バブル崩壊を迎えたアメリカと日本両国の、その後の住宅価格の推移から、それぞれの国の金融政策の対応が最善であったかどうかが読み取れます。アメリカでは2006年6月に住宅価格がピークを迎え、直後にバブルが崩壊して住宅価格は急激に下がりますが、2012年くらいからは回復し始めます。日本はバブル崩壊後5年間で一気に住宅価格が下がり、その後も緩やかに下がり続け回復しませんでした。この差をもたらしたものがそれぞれの国の金融政策です。

つまり日銀は量的緩和に踏み切るタイミングが遅く失敗し、アメリカのFRBは素早く量的緩和に踏み切り、かつ長く続けたことで回復することができたのです。日銀の失敗は、日本の住宅価格を長期低迷させる状態を長らく招きました。しかし、日本もアメリカの回復の影響とアベノミクスによる効果により、2013年秋頃からわずかずつ上がり始めています。ただしこれから先のことは、アメリカの金融政策が大きく変わり金利が上がることで、川口氏にも予想を超えた変化が起こる可能性が高いとの話でした。日本にもダイレクトに影響を与えることは間違いないので、引き続き注視が必要と言えそうです。

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