米国のトリプル安とJ-REIT価格への影響/アイビー総研 関 大介
1. 直近のJ-REIT価格は安定的な値動きに
直近のJ-REIT価格(3月24日~4月23日)は、比較的安定的な値動きとなった。東証REIT指数は株式市場が急落した4月7日に1,650ポイント台を下回る場面もあったが、4月23日の終値は1,720ポイントと3月24日の1,708ポイントを上回っている。
一方で、株式市場は値動きが荒い状態になっている。日経平均株価は3月24日の37,608円から4月23日には34,868円まで下落しているだけでなく、図表の通り、J-REIT価格と比較すると変動率が高い状態となっている。
今週の株式市場の乱高下は、トランプ米大統領がFRB(連邦制度準備理事会)議長解任の示唆と、早急に「火消し」を行ったことが原因と考えられる。さしあたって株式市場は上昇局面となっているが、トランプ米大統領の打ち出す政策の不透明感は強く、今後も株式市場での値動きが荒い状態は続くと考えられる。
2. これまでとは異なるJ-REIT価格の上昇
前述のとおり、東証REIT指数は4月7日から上昇基調となっているが、これまでとは異なる値動きとなっている。大きな違いは、米国長期金利が上昇する中で、J-REIT価格が上昇している点だ。
売買金額のなかで50%の市場を占め、J-REIT価格への影響度が強い外国人投資家は、米国10年債利回りの状況によって売買動向が変化していた。例えば、米国10年債利回りの低下傾向が明確になった2024年8月は736億円の買い越しであったが、一転して金利が上昇した10月には586億円の売り越しとなった。
米国10年債利回りは4月7日に3.8%程度まで急低下した後、急激に上昇に転じ、3月と比較しても高い4.3%を超える水準で推移している。米国長期金利は今後も上昇する可能性があるため、これまでであればJ-REIT価格は下落する状況と言えるだろう。
同様の状態は為替市場でも生じている。4月22日の「吉田恒の為替デイリー」コラム「『トランプ円安』予想は何を間違えたのか」でも解説されているが、米国長期金利が上昇する一方で日本の長期金利は低下したため、日米の金利差が拡大する中で円高が進展している。
3. 米国長期金利動向に左右されない状況は続くと予想
米国でのトリプル(株式、債券、為替)安は、トランプ米大統領の政策予見不確実性に拠るものであると考えられる。したがって同様の乱高下は当面今後も起きる可能性が高い。
J-REIT価格に与える影響で見れば、米国長期金利の上昇が債券市場からの資金逃避で生じる状態となっているため、逃避先としてJ-REITが選ばれる可能性があると考えられる。したがってトランプ米大統領の政策予見性が高まるまでは、直近2年間のJ-REIT価格低迷要因であった米国長期金利上昇によるJ-REIT価格への悪影響は少ない状態となりそうだ。
また、米国関税政策による企業業績への影響が不透明な中では、賃貸契約による高い収益安定性があるJ-REITの優位性にも注目したい。例えば、三菱地所物流リート投資法人(MEL)は、2025年2月決算説明会(4月17日に開催)で今後2年間の短期的な目標として、売却益などの特殊要因を除外した分配金(巡行分配金)を年率3.5%以上成長させることと、年間10億円の売却益を投資家に還元する方針を示している。
MELはこれまで当期および次期の業績予想開示だけであった。しかし多くの銘柄が中期目標を掲げる中で、MELとしても業績予想の先の姿を示すかたちとなった。同様の動きはまだ中期計画などを公表していない銘柄にも波及すると考えられる。
事業会社とは異なる安定性や成長性を示すことでJ-REIT価格は、不透明な市場の中での資金逃避先として選ばれる可能性もありそうだ。

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