NAV倍率は注意が必要な投資指標/アイビー総研 関 大介
1. NAVとNAV倍率とは
2024年から導入される新NISAの影響もあり、私にも一般誌からの取材依頼がある等、J-REITに対する関心も高くなっているようだ。
比較的利回りの高いJ-REITは個別銘柄に投資した場合(※1)でも、半年毎(※2)に受け取れる分配金が非課税になるため、NISA枠で投資したメリットを早期に受けやすいという利点がある。
J-REIT投資に関して、SNSなどで初心者向けの説明も増え、投資にあたっての様々な指標の解説も行われているが、特に注意が必要な指標として「NAV倍率」が挙げられる。
まず、NAV(Net Asset Valueの略)とは、時価価値をベースにした純資産価値を指す。例えば、総資産1,000億円、負債400億円、純資産(資本)600億円のA投資法人があった場合、その決算期の総資産の時価が1,100億円となっていたとすると、NAVは700億円(1,100億円-400億円)になる。
このNAVに対して、A投資法人の時価総額(※3)が700億円であった場合、NAV倍率は1倍(700億円 ÷ 700億円)となり、 840億円であった場合のNAV倍率は1.2倍(840億円 ÷ 700億円)となる。つまり、NAV倍率が1倍を超えるとA投資法人の時価総額は資産の時価に対して過大(割高)になっているという解釈になる。
NAV倍率は投資法人の価格水準を比較的単純に示すことが可能な指標とも言える。しかし、NAVを算定するための時価の問題が指摘されることが少ない点には注意が必要だ。
2. NAV倍率は参考程度の指標と考えるべき理由
NAV算出のためには総資産の時価評価が必要となるが、J-REITでは統一した評価基準で算定されることはなく、各銘柄が開示している決算期末の鑑定価格が時価評価となっている。前述の事例で総資産1,000億円の時価評価が1,100億円となっている理由は、鑑定評価額が簿価に対して100億円上回っているためだ。
一方で、鑑定価格は鑑定会社が算定した参考価格に過ぎない。従って鑑定会社が異なれば、鑑定価格も違う評価額になる。鑑定会社の違いによって鑑定価格が大きく異なる事例もJ-REITでは生じている。この点がNAVに関する最大の問題点だ。
例えば、オリックス不動産投資法人(OJR)が8月31日に売却した「ホテル日航姫路」の鑑定評価額は、2023年2月末時点の3,050百万円から7月末時点で1,780百万円に急減している。
OJRは2月/8月決算銘柄だが、7月末時点の鑑定評価額を取った理由は当該物件を売却するため、2月末時点と異なる鑑定会社に評価を依頼したためだ。鑑定会社によって収益の見通しが異なるため、鑑定価格に乖離が生じているが、宿泊需要が回復している中で鑑定価格が40%以上も下落する結果となっている。
このような極端な事例は少ないと考えられるが、NAVは鑑定価格を算定の基礎にしているため、鑑定会社が異なるだけで変動する数値とも言える。例えば、B投資法人のNAV倍率1.2倍とC投資法人のNAV倍率1.0倍を比較しても、鑑定会社が異なっている場合、B投資法人が割高とは言えないことになる。
このようにNAV倍率はJ-REITを説明する上で単純化しやすい指標のように見えるが、投資判断基準としては注意が必要な面が多いことに投資家は留意すべきと考えられる。
(※1)成長投資枠には、本稿執筆時点J-REIT全銘柄が対象となっていない点には注意が必要
(※2)1銘柄(ジャパン・ホテル・リート投資法人)(8985)は年1回決算
(※3)単純化するために剰余金などを加味していない
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