旅行需要回復とホテル系銘柄投資における注意点/アイビー総研 関 大介
1. 直近のJ-REIT価格動向
J-REIT価格は、7月下旬以降の安定的な値動きが続いている。東証REIT指数は8月30日につけた2022年度高値2,044ポイントを更新できていないが、9月に入ってからも9月13日に2,036ポイントをつけるなど2,000ポイント台で推移している。
更に米国10年債利回りは、9月19日に2011年以降としては初めて3.5%を超える水準まで上昇している。6月のJ-REIT価格急落要因は、米国10年債利回りの上昇であったがその時は3.5%を超えていなかった。つまり米国の長期金利上昇がJ-REIT価格に与える影響が少なくなっている。
この要因として米国の2年債利回りと10年債利回りに大幅な逆イールドが発生していることが挙げられる。米国2年債利回りは4%を超える水準まで上昇し、10年債利回りとの乖離が0.5%近い水準まで拡大している。投資家は、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに伴う景気悪化リスクをより意識した状態となっている。
2. ホテル系銘柄の価格は既に割高に
その一方、日本国内に目を向けると、米国と異なり日銀の金融緩和政策が変更となる可能性が少ないため円安が進行している。更に新型コロナウイルス感染者の減少に伴い全国旅行支援政策(旧GOTOトラベル政策の名称及び内容を一部変更)の再開やインバウンド(訪日客)に対する人数制限撤廃の動きも加速している。
この点で見れば、J-REIT市場の中ではホテル系銘柄に対する恩恵が強い状態になっている。
しかし、ホテル系銘柄の価格は、2020年以降のコロナ禍の中でも一定程度回復しており割高感が既に生じている。
例えば、8月に6月期に決算発表(※1)を行ったインヴィンシブル投資法人(INV)とジャパン・ホテル・リート投資法人(JHR)の割高感は以下の通りとなる。
INV、JHRのコロナ禍前にあたる2019年の平均利回りは各々5.83%、4.30%となっていた。9月21日時点の価格は各々44,350円、69,300円となっているため投資家が2019年当時と同様の利回りまで分配金が回復する想定しているとすれば、分配金はINVが2,586円(44,350円×5.83%)、JHRが2,980円(69,300円×4.30%)の回復まで織込んでいることになる。
2019年実績分配金と比較すると、INVは76%(※2)、JHRは80%(※2)の水準まで分配金が回復する水準だ。
前述の通り国内宿泊需要喚起策の効果は期待できるが、中国の厳格なゼロコロナ政策転換まで2019年当時と比較すれば回復は難しいと考えられる。
2019年に3,000万人を超えたインバウンドのうち、中国人が占める割合が50%近い状態であったためだ。つまりインバウンドに対する制限緩和が実現しても、ホテル系銘柄への恩恵は2019年当時と比較すれば少なくなりそうだ。
従って、これからのホテル系銘柄への投資には、次の2点を想定する投資家である必要があると考えられる。
まず1点目として2019年と比較しても中長期的なインバウンドの増加を想定していること。そして2点目として、円安に伴い国内宿泊需要が大幅に拡大すると想定していることとなる。
J-REIT投資の基本は安定的な分配金という点から見れば、ホテル系銘柄はコロナ禍によって「異色」の存在となっており、より慎重な投資姿勢が必要と考えられる。
※1) インヴィンシブル投資法人は2022年6月期、ジャパン・ホテル・リート投資法人は2022年12月期の中間決算
※2)2019年実績分配金はインヴィンシブル投資法人が3,381円、ジャパン・ホテル・リート投資法人が3,690円
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