J-REITへの公開買付の影響/アイビー総研 関 大介
1. NTT都市開発リート投資法人へのTOBは不成立
外資系ファンドの3Dインベストメント・パートナーズ(3DIP)が、1月28日に公表したNTT都市開発リート投資法人(NUD)へのTOB(株式公開買付)は3月21日に不成立となった。3DIPは公開買付期間を2回延長したが、NUDの価格は公開買付価格である131,890円を公表後に上回って推移し、買付予定数の下限に達しなかったためだ。
3DIPが阪急阪神リート投資法人(HHR)に対して行っている株式公開買付も、HHRの価格が公開買付価格である143,770円を上回って推移しており、不成立となりそうだ。NUDとHHRは、3DIPが公開価格を妥当性のある水準として「お墨付き」を与えた形になった。NUDの価格は公開買付終了後も堅調に推移しているため、他の投資家は3DIPの公開買付価格を参考に投資していると考えられる。
2. スポンサー関与の強化
3DIPの2銘柄に対する公開買付は不成立となりそうだが、J-REIT市場に対し影響を与えている。まず1点目として買収防衛とも考えられる動きが生じている点が挙げられる。
3DIPの公開買付は純投資であり、経営陣の変更や買収を目的としていない。しかし、理由として記載されている通り、公開買付対象銘柄の価格水準が極めて割安になっている点を指摘している。この点はHHRやNUDだけでなく、多くの銘柄でも該当している。
従って純投資目的ではなく、買収としてのTOBも想定できる状態ともいえる。現状の価格水準が低いため、買収側は買収後の不動産を売却すれば十分に利益が出せる水準のTOB価格を設定できるからだ。
このような買収を防ぐ目的もあり、2/3付コラム「NTT都市開発リート投資法人に対する株式公開買付について」にて指摘した通り、スポンサーが傘下の銘柄の投資口を買い増しする事例が増えている。例えば、東急不動産は傘下のコンフォリア・レジデンシャル投資法人とアクティビア・プロパティーズ投資法人の投資口をそれぞれ1.1%、1.8%買い増して10.3%、13.1%保有するとした。
3. 売却益による増配余地の拡大
2点目の影響として、物件売却による増配の可能性が高くなっている点が挙げられる。3DIPが割安としている理由は、不動産時価(不動産鑑定額)と比較した場合に多くの銘柄の価格が低いためだ。
割安感を示す指標としてNAV(Net Asset Value)倍率が使われる。NAVは不動産鑑定評価額を基に総資産額を算出し、負債を控除した後の純資産額を示す。NAV倍率は純資産額と時価総額との比率となり、例えば純資産額が2,000億円で時価総額が1,500億円だとするとNAV倍率は0.75倍となる。
多くの銘柄は物件売却を行って売却益が発生した場合、中長期的な分配金の安定を図るために内部留保を行うことが多い。仮に鑑定価格を上回る価格で売却し、含み益を上回る売却益を内部留保した場合、純資産の増加要因になるため、価格が上昇しないとNAV倍率が低下する。先程の例で言えば、例えば鑑定額を200億円上回って売却し売却益を全額内部留保した場合、価格が上昇しないとNAV倍率は0.68倍(1,500億円÷2,200億円)となる。
従って売却益の内部留保はその銘柄の割安感をさらに加速し、買収される可能性を高める要因ともなる。その要因を排除するためにも、売却益の多くを投資家に早期に還元する方針を示す必要がある。また買収回避目的でなくても、価格上昇のためには増配は欠かせない市場環境だ。
具体的な事例では、アドバンス・レジデンス投資法人(ADR)が分配方針を変更している。ADRは3月に2025年1月期の決算発表を行った際に分配方針を変更し、継続的に売却益を確保し、分配金は売却益により変動させるとした。ADRの賃貸収益は安定しているため、売却益計上はその期の増配につながる可能性が高くなっている。
今後は多くの銘柄が、ADRのように投資家に対する売却益の早期還元を行い、増加する可能性が高くなっている。価格が上昇しなかったとしても、投資家は増配の恩恵を受けることができそうだ。
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