日銀のYCC幅拡大に対応するJ-REIT/アイビー総研 関 大介
1. 直近のJ-REIT価格動向
J-REIT価格は、7月初旬から下旬にかけて上昇傾向を示していたが、再び以前のボックス圏に戻る展開となっている。東証REIT指数は7月26日の年初来最高値の1,900.28ポイントから7月末に下落基調となり、その後は1,850ポイントから1,880ポイントでの動きとなっている。
価格がボックス圏へ戻った要因は、米国10年債利回りの再上昇と考えられる。投資部門別売買を見ると、7月は外国人投資家が311億円の買越しを行ない、J-REIT価格上昇を牽引した。外国人投資家の300億円を超える買越しは2022年7月以来であり、その時は東証REIT指数が2,000ポイントを回復した時期だった。
7月下旬から米国10年債利回りは4%を超える利回り水準での推移が続き、8月21日には16年ぶりとなる4.3%を超える水準まで上昇している。外国人投資家の売越しだけでなく、その傾向を想定した国内投資家の売越しも生じているため、J-REIT価格は反落したものと考えられる。
一方で、米国10年債利回りの利回り水準の想定が難しくなっていることで、国内地方銀行が外債投資を拡大する余地が少なくなっている。従って利回りを求める国内金融機関の投資を期待できそうだ。この点が当面のJ-REIT価格の下支え要因になると考えられる。
2. 国内長期金利上昇に対するREITの対応
なお、J-REIT価格が下落に転じた7月下旬は、日銀がYCC(イールドカーブ・コントロール)の幅の拡大を決定した時でもあった。しかし、公表された日の下落率は0.5%程度であり、価格への影響は少なかった。
また、YCCの幅拡大に伴い日本の長期金利は上昇しているが、過去のコラムで解説した通り、業績への影響が少ないと考えられる。具体的には日銀の政策変更後の8月15日に2023年6月期の決算発表を行った日本ビルファンド投資法人(8951)(以下NBF)の対応を見てみよう。
NBFは2023年6月期の決算発表に伴い公表した「決算説明会資料」で長期金利上昇に対応するため、財務方針(※)を変更することを示している。具体的には以下の3点となっている。
1)長期変動借入金の活用
これまで長期固定金利での割合を90%としていたが、80%以上に緩和し変動金利での調達余地を拡大。
2)調達金利の抑制
長期金利上昇の影響を一定程度受ける想定とし、平均調達金利をこれまでの0.4~0.5%程度を想定する。
3)調達期間の短縮化
借入金の返済期限までの平均である平均残存期間をこれまでの5.7年~5.0年程度に短縮し、今後の借入金の調達期間をやや短くすることで長期金利上昇の影響を一定程度回避する。
このような施策は、単純に見れば、財務方針の「後退」とも受け取れるが、日銀の異次元金融政策により極めて強固としていた財務運営を一部「緩和」したと見るべきだろう。言い換えれば、将来の金利上昇を想定して、これまでは極めて保守的な財務方針を堅持できていたため、緩和しても財務面での影響が少ない施策が取れたということになる。
全ての銘柄がこのような施策を採れるということではないため、銘柄毎の長期固定金利比率を確認する必要は生じている。しかし市場全体として見れば、NBFと同様に保守的な財務方針を築いてきた銘柄が多いため、長期金利上昇の影響は少ないと考えられる。
(※)NBFは「デットファイナンス戦略」としている。
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