日本再生可能エネルギーインフラ投資法人へのTOBについて(2)/アイビー総研 関 大介
前号に引き続き、インフラファンドの日本再生可能エネルギーインフラ投資法人(RJIF)へのTOB(株式公開買付)について記載していく。
1. TOB理由への疑問点
前号では、RJIFのスポンサーであるリニューアブル・ジャパン(RJ社)が公開買付書で記載しているTOB理由について記載した。TOBの主要な理由として私が挙げた点は2点あるが、いずれもRJ社側からの視点であり、投資家側から見れば疑問が生じるTOB理由であると考えられる。
まず1点目として記載した「賃料契約形態によるRJ社の負荷」についての疑問点は、何故RJIFは50パーセンタイル(P50)を前提とした固定賃料形態に固執したのかという点だ。
前号でも記載した通り、P50の方がP75などと比較して固定賃料が高くなる。そのためRJ社は「逆ザヤ」リスクを抱えていることがTOBの要因として挙げられている。
しかし上場から5回の増資を実施しているRJIFは、増資で取得した物件に対しP75などの契約形態を採用することは可能であったと考えられる。上場時点のポートフォリオに対してP50ベースでの契約は、3社目のインフラファンド上場として収益安定性を考慮するとやむを得なかったとも言えるが、上場後に路線修正を行う機会はあったと考えられるのだ。
同様に上場時にP50を採用していたタカラレーベン・インフラ投資法人は、上場後最初の増資時点からP75ベースに切替えていた点も併せて考慮すれば、RJIFが路線変更を実施しなかった理由が判然としない。
2点目として記載した「出力制御実施電力会社の増加」についての疑問点は、RJIFが上場した2017年以前から出力制御実施の可能性は考慮することが可能であったという点だ。
出力制御は大規模な発電設備に対し年間30日の日数単位で行うものから、2015年1月以降は時間単位で日数制限を行わない発電所を規定するなど、適用に向けた制度準備が進んでいた。
2015年は、出力制御の順位が最も遅い原子力発電所の再稼働がほとんど進んでいない時期であった。また私がインフラファンドを対象としてセミナーを実施した際には、九州電力以外の出力制御の可能性も指摘しており、より専門知識を有しているRJ社が出力制御実施電力会社の拡大を指摘した理由も判然としない。
2. 本件TOBの効果
本件TOBが成立した場合の効果として、投資家側で見れば多くの投資家にとってキャピタルゲインが発生するということになる。
本件TOBの価格は115,000円であり、RJIFの価格は2017年末の一時期を除きTOB価格を下回って推移しているためだ。利益超過分配に伴い税務上の投資単価が下落している投資家も多いため、購入価格より大きいキャピタルゲインが生じることになりそうだ。
またRJ社側は、RJIFの発電所を簿価380億円に対し430億円程度で取得する効果となる。発電所の減価償却前簿価は420億円程度であり、RJ社側は売却額と同程度で発電所を買い戻すことが出来る効果を生むTOBとなっている。
次に本件TOBが未成立となった場合の効果として、投資家側で見ればRJIFの価格下落は避けられないという点が挙げられる。RJIF価格は、本件TOBの公表により、10万円付近の推移からTOB価格付近まで上昇している。
またRJIFは本件TOBが成立した場合、当期(2022年7月期)の分配金を無配と公表しているが、TOBが未成立となった場合の業績予想修正は公表していない。本件TOBに伴い弁護士などTOBに係わる費用が発生している可能性が高いが、RJIFの当期純利益予想は423百万円としており、TOB関連費用が発生した場合の減配率が高くなる可能性がある。
更にRJIFが発電所の契約形態を変更する懸念も高い。前述の通りRJ社側から見ればP50ベースの賃料形態は負担が重いため、他のインフラファンドと同様にP75ベースなど変動賃料の割合が現状より高い契約形態になり、当期以外でもこれまでの実績分配金と比較すれば、分配金水準が低下する可能性もありそうだ。
従ってTOB成立が投資家にとっても必要だと考えられるが、その確度を高めるためにはTOB価格の引き上げが条件となりそうだ。
RJ社側は「太陽光発電所、特にFIT制度に依拠する稼働済太陽光発電所の取得のため競争は激化の一途をたどり、取得価格の相場は上昇を続けている」(公開買付説明書・P8)との認識を示している。
現時点のTOB価格は、前述の通りRJ側がこれまでにRJIFに売却した価格で太陽光発電所を買い戻す水準であり、発電所価格の高騰に対応していないとも考えられる。従ってRJ社側がTOB価格を引き上げる余地はありそうだ。
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