【J-REIT20周年企画】用途別の特徴とコロナショックの影響(4)商業施設編/アイビー総研 関 大介
2021年9月でJ-REIT市場がスタートしてから20年になった。その点からJ-REIT投資を始める上で押さえておきたい用途別の特徴とコロナショックの影響について記載していく。過去のコラムで取り上げたオフィス系・物流系・住居系銘柄に続き、今回は商業施設系銘柄について記載する。
1. 商業施設系銘柄の収益特性
商業施設の収益特性は、物件が所在する地域によって異なる。
一般的には都市部の繁華街に所在する物件を「都市型商業施設」、それ以外を「郊外型商業施設」と大別することが多い。
「都市型商業施設」の収益特性は、変動が大きくなるという特徴がある。賃料単価が高いためテナント退去の影響を受けやすいためだ。一方で1物件に多くのテナントが入居することが多いため、分散効果が高い。従って収益が一時的に低下しても、新規テナントの入居で回復していくことになる。収益特性としては、オフィスビルと同様の傾向が強い。
「郊外型商業施設」の収益特性は、安定性が高いという特徴がある。他の用途と比較してテナントと長期間の賃貸借契約になっているためだ。
J-REIT市場は2001年9月にオフィス系2銘柄でスタートしたが、3銘柄目として上場した商業施設特化の日本リテールファンド投資法人(現、日本都市ファンド投資法人、JMF)(※)の上場時ポートフォリオの大半が郊外型商業施設で占められていた。これは3番目の上場銘柄として先行する2銘柄とは異なる収益安定性を投資家にアピールする狙いがあったものと考えられる。
一方で長期契約とはいえ、賃料更新やテナント解約が可能となる時期が契約期間中に到来する場合が多い。例えば20年契約であっても、契約から5年毎に賃料の変更が可能となり、10年経過後には解約が可能となるといった内容だ。
このように商業施設系銘柄といっても、ポートフォリオの構成によって収益特性が異なる点や郊外型商業施設の場合には、契約内容の確認が必須とも言える。従ってJ-REIT投資の初心者には比較的ハードルが高い用途の銘柄と言えるだろう。
2. コロナショックが商業施設に与えた影響と今後の見通し
コロナショックは、都市型商業施設に大きな悪影響を与えることになった。休業要請の対象となった飲食店などの業態のテナントだけでなく、人流抑制に伴い大半のテナントに影響が出たためだ。
コロナ禍では、都市型商業施設のメリットであるテナント代替性が期待できなくなったことから、J-REIT側は休業補償金の受領状況なども確認しながら一時的な賃料減免や免除を余儀なくされることになった。
更にコロナ禍は、都市型商業施設に中長期的な悪影響を及ぼす可能性が高い。都市型商業施設のメインテナント層といえるアパレルや物販系のテナントがコロナ禍をきっかけに通販などのEコマースへのシフトを加速している点が懸念されるためだ。
都市型商業施設は、これまでのような「モノ消費」テナント構成ではなく、実際に来店が必要な「コト消費」のテナント誘致がより重要になってくる可能性が高い。
また商業施設系銘柄のポートフォリオ構成にも影響を与える可能性がある。郊外型商業施設はテナント代替性が低く、周辺に競合店が増加した場合には賃料更新時に大幅な賃料が減少するリスクや解約可能期間に入った場合にはテナント退去リスクが高い。
例えばJMFは、大阪府岸和田市に取得額72億円強で保有していた「岸和田カンカンベイサイドモール」を、競合店の増加から2016年に20億円弱で売却することになった。
このような事例への懸念が投資家にあるため、商業施設系銘柄は都市型商業施設への投資拡大を図っている中で、今回のコロナ禍が起きた形となった。「コト消費」のテナントをどの程度誘致するかなど、施設運営者としての能力が必要な状況になり、都市型商業施設の取得に一定の抑制が働く可能性もありそうだ。
一方で2021年のJ-REIT価格上昇を牽引してきた外国人投資家が、商業施設系へ食指を伸ばしていないため、比較的利回りが高い状態である点はメリットと言えるだろう。外国人投資家は、コロナ禍前から米国でショッピングセンターの破綻が続いている事例から、日本の商業施設への懸念を持っていたためだ。
また物件数が多くポートフォリオの物件分散効果が高い銘柄であれば、売却損への懸念も少ない。例えば前述の「岸和田カンカンベイサイドモール」売却時には、JMFは他の2物件の売却益で分配金への影響を回避している。
従って、ポートフォリオの分析などを行える投資家にとってみれば、コロナ禍の状況は商業施設系銘柄の割安感を維持できている状況と考えられる。
※JMFは、合併を経て現在は商業施設を中心とした総合型銘柄となっている。
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