2019年12月02日

日本賃貸住宅投資法人と日本ヘルスケア投資法人の合併

1. 合併により分配金は増加

日本賃貸住宅投資法人(JRH)と日本ヘルスケア投資法人(NHI)は、2020年4月に合併予定であることを公表した。
両銘柄は大和証券グループ本社をスポンサーとする銘柄であり、投資法人名称の通り、投資対象はJRHが住宅、NHIがシニア住宅(有料老人ホームを含む介護保険の対象となる施設などのシニア向け住宅)となっている。
存続銘柄はJRHであり、NHIの投資主総会の承認などを経て、JRHの来期(2020年9月期)期首に当たる2020年4月1日に合併する予定。
合併比率はJRH=1:NHI=2.05として、合併時に名称を「大和証券リビング投資法人」(DLI)に変更する。

また、合併直後にJRHが保有している住宅27物件を鑑定価格と同額の136億円でスポンサー傘下の会社に売却すると共に、シニア住宅28物件を626億円(鑑定額合計は658億円)で取得する。スポンサーである大和証券グループ本社と子会社は、取得と売却の差額490億円の半分程度となる260億円について第三者割当増資を引受けることで拠出し、DLIに対する関与を明確化するとしている。


2. 合併のメリット

投資家から見て最も重要と考えられる分配金水準は、合併直後の決算期(2020年9月期)及び次期(2021年3月期)ともに2,150円としている。
合併直後の決算期は住宅の売却益や合併費用などに影響が生じているが、次期は特殊要因を除外したいわゆる巡航分配金となっている。次期予想分配金の2,150円は合併前のJHRに対しては7.5%、NHIに対しては4.2%と共に増配となっている。

更にJRH、NHIの既存投資主にとっては、合併後のポートフォリオの安定性が増すことになるというメリットもあると考えられる。
JRHから見れば、シニア住宅は入居者となるシニア層の人口が増加するという点でポートフォリオに組み入れるメリットがある。賃貸住宅特化銘柄も同様の理由で、ポートフォリオに占める割合は少ないもののシニア住宅を組み入れている。NHI側から見れば、合併によってシニア住宅が占める割合が低くなるというメリットがある。シニア住宅は、在職する介護職員の確保や暴力などの問題が生じる可能性があるという点でも、住宅とは異なり運営リスクが高い用途となっている。
合併によってシニア住宅の個別物件が占める比率が低下することで、仮に個別物件に何らかの問題が生じた場合でも、分配金に与える影響を少なくすることができるメリットは大きい。NHIは23物件しか保有していなかったが、合併によって新投資法人は217物件となり、個別物件の占める割合は大幅に低下することになる。

一方、これから投資を行う投資家にとってみれば、従来から想定されていた合併であるため投資妙味は少ないと考えられる。
DLIは住宅とシニア住宅の銘柄の合併であるが、この形式は2018年3月に合併したケネディクス・レジデンシャル・ネクスト投資法人(KRN)と同様である。KRNの合併事例が先行して存在していたことで、JRHとNHIも同様に合併する可能性はこれまでも指摘されていた。
分配金利回りを比較しても、11月27日時点でJRHの3.80%に対してKRNは3.85%と同様の利回り水準になっている。JRHの11月27日時点の価格に対して合併後のDLIの巡航分配金2,150円をベースにしても3.94%となるため、現状のJRHの価格はKRNとの比較でみれば割安感はない状態になっている。


3. 合併後の懸念材料

更に今後の懸念材料として、シニア住宅の取得時利回りが低下する可能性が高いことが挙げられる。合併時に公表した資料(※1)に拠れば、住宅とシニア住宅の取得時利回りの乖離幅は5年前の2014年では0.94%シニア住宅が高くなっていたが、2019年には0.05%の差まで縮小しているとしている。つまり住宅もシニア住宅も2019年時点では取得時利回りにほとんど差異がないという内容になっている。
前述の通り、シニア住宅は運営リスクが住宅と比較して高い用途であり、この傾向は5年前と変化していない。従って現状のシニア住宅に対する利回りは運営リスクを考慮すれば低すぎる状態だ。住宅とシニア住宅でポートフォリオを構築するメリットは、本来であれば住宅だけのポートフォリオと比較して高い利回り水準を維持することも可能となる点と考えられる。
DLIの合併時ポートフォリオは住宅70%とシニア住宅30%となる予定であるが、運用方針上ではシニア住宅を最大で40%程度まで増加できるとしている。DLIが今後取得するシニア住宅の利回りが、賃貸住宅と変わらない水準であれば、リスクだけが増大するポートフォリオに変化すると考えられる。投資判断に当たっては、DLIが取得するシニア住宅の利回りを充分に確認する必要がありそうだ。

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(※1)日本賃貸住宅投資法人及び日本ヘルスケア投資法人 2019年11月19日付け「合併他一連の取引に関する説明資料」P27「不動産市況:キャップレートの差の縮小」に記載


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