部門別売買動向と投資主比率構成で見えるJ-REITの特徴/アイビー総研 関 大介
J-REITの価格は、株式市場の影響を受けてはいますが比較的穏やかな値動きとなっています。昨年末と2月5日を比較すると日経平均は13%の下落、東証REIT指数は5%弱の下落となっています。為替動向に左右されないJ-REITの特徴が出たかたちになっていますが、米国の景気減速が日本企業の業績に影響することが懸念される事態になればJ-REIT価格への影響も懸念される状況です。現在のJ-REIT価格は、景気回復によるオフィス市況の改善を織込んで形成されているためです。
なお、大和ハウスリート投資法人(証券コード3263)が3月から投資口を2分割、積水ハウス・SI 投資法人(証券コード8973)が4月から投資口を5分割することが公表されました。2月/8月決算となっている9銘柄のうちSIA不動産投資法人(証券コード3290)を除き、8銘柄が投資口分割銘柄となります。
今回は、株式市場と異なるJ-REITの特徴について、部門別の売買動向と投資主構成の推移を使って説明します。その特徴とは、J-REITは増資を頻繁に行うため、公表されている投資家の売買動向だけでは実態がわかりにくいという点です。
まず、J-REITの売買動向については、東証が毎月15日前後にHP(※)で公表しています。それに拠ると図表2の通り2013年に個人は過去最高となる月平均で400億円を超える売越しを行っています。
これだけの売越しを行うと各銘柄の投資主構成に影響を与えることになりそうですが、図3(※)の通り個人投資主の保有比率はほとんど変化していません。その理由として、J-REITは株式市場の企業と比較して頻繁に増資を行うことと、市場規模と比較すると新規上場や増資の影響が大きいことが挙げられます。
新規上場や増資時には、証券会社が増資を行った銘柄の投資口(株式に相当)を引受けして投資家に売却します。このため新規上場や増資時の投資家購入額は、証券取引所の売買統計の対象外となります。例えば個人投資家が50万円で増資に応じて投資を行い、70万円で売却した場合は、単純に70万円の売越しだけ部門別売買動向に反映することになるのです。
2013年は新規に6銘柄が上場し4,500億円を超える資金調達を行っただけではなく、既存銘柄は増資によって過去最高となる7,000億円を超える資金調達を行いました。併せて1兆1,500億円のうち個人投資家に配分された金額は、公表されているデータが存在しないため明確ではありません。しかし、個人投資家には多くの割合を配分しているとしている銘柄が多いため、例えば半分を個人投資家に配分したとすると月平均で480億円程度(1兆1,500億円×50%÷12)は個人投資家が購入していることになります。この前提で見ると個人投資家の差引売買金額は、前述の400億円の売越しでは80億円程度の買越しとなるのです。この数値は、個人投資家への配分割合が50%という前提ですが、少なくとも2013年は実質的に個人投資家が大幅に売り越した年にはなっていない可能性が高いのです。
このように一見矛盾しているように見える投資口売買動向と投資主構成比率の関係は、資金調達動向を併せて見ることで整合性があるものになります。マスコミ報道などでは、投資家の売買動向など、一部のデータで市場動向を説明することもありますがJ-REIT市場を冷静に見るためには、新規上場や増資による資金調達の動向も併せて考慮する必要があるのです。
※ http://www.tse.or.jp/market/data/sector/others.html
※ 図表3は2013年上半期までの投資主構成の推移を示しているが、個人投資家の2013年上半期(1月-6月)の売越し額も通年値と同様に月平均で400億円を超える売越しとなっている。
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