価格安定期こそ制度改正が必要/アイビー総研代表 関 大介
J-REITの投資口価格は、東日本大震災後に日銀がREIT買取枠を1,000億円に倍増したことが支えになり安定感を増している。しかし個人投資家の売買動向を見ると、2009年11月から14ヶ月連続(2010年3月末時点)で売り越しが続いており、REITという商品特性が個人投資家に浸透しているとは言えない状況が続いている。
但し、個人投資家はREITへ投資意欲がない訳ではなく、個別銘柄よりもファンド・オブ・ファンズ(FOFs)への関心が高くなっている。
5月13日の日経新聞では2011年4月末のFOFsの残高が5兆円を突破し、過去1年間で2兆円以上の資金が流入、特に現状では実績分配金から見た利回りが高い海外REITへの投資意欲は強い、という記事が掲載されている。
FOFSの特徴は、複数銘柄への分散投資を行っていることで分配金が安定するという点にあり、実際に人気があるFOFsはその傾向が強い。
しかし、FOFsは分配金をどのような原資で賄っているのか見えにくいというデメリットももっている。
例えば、US-REITは、4月末時点の分配金利回りが3.3%(NAREITに拠る)となっていることから考えれば、これよりかなり高い利回りのUS-REITを投資対象としたFOFSは過去の値上がり益を分配金に回している可能性が高いことになる。US-REITの価格上昇が続かなければ、どこかの時点で高い分配金は「息切れ」するのだ。
しかし、現状では高い分配金が安定して還元されていることで、個人投資家の関心は高く、また銀行や証券会社などの販売側も安定して販売手数料が入ることで投資家に勧めやすい状況になっている。
つまり個別銘柄としてのJ-REITは、このようなFOFsと競合しているということになるのだ。
大半の銘柄は、決算説明会資料でFOFs分(投資信託分)を個人投資家とみなし個人投資家にも浸透している点をアピールしているが、東証REIT指数連動型のFOFsが大半を占めており、時価総額が大きい銘柄に資金が流入する形になる。
この点が規模拡大を第一義とするREIT銘柄が存在する要因にもなり、また希薄化増資を招くことにつながっている。
このような傾向を是正するために、最も必要な点は個別銘柄の分配金が安定して投資家に還元されるようになることである。そのためには、個別銘柄の価格が安定している時期であるからこそ、制度改正をより積極的に進める必要があろう。
具体的には、従来から論じられているように、物件売却益を複数決算期に分けて分配することが可能とする点や、価格低迷期に有効となる投資口の買入消却制度の導入等である。
大震災により今秋以降に企業業績の低迷が明確になり賃貸市場に影響を与えるようになれば、個別銘柄に分配金水準が再度下落する可能性もある。J-REITが猶予を与えられている時間は時間は極めて少なく、今こそ危機感を持って制度改正を行う時期なのだ。
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