2009年04月03日

景気対策とJ-REIT/REITアナリスト 山崎成人


 政府・自民党が発表する景気対策の中に、REITに関する措置が盛り込まれるケースが多くなっています。
これまでREITに対する支援策として、昨年末にREIT融資枠の設定が発表されましたが、現在検討されている内容はもう一歩踏み込んで、エクイティ、投資法人債、保有不動産の売却に関する、REITの活動全てに及んでいます。

一方、このような支援策に対して、一部では「不動産業を助けるのか?」という感情論もあります。
然しながら客観的に見れば、REITは不動産業ではなくて投資信託業ですし、投資法人は投資の導管体ですので、結果として支援対象は不特定多数の投資家になります。
同じ投資商品でも、株式や社債は発行体に実体がありますので、支援対象は特定の企業になりますが、REITの場合は3~5人の名誉職的役員のみで構成されている組織ですから、実態としては投資法人の支援にはなりません。
またREITが、私募ファンドのように不動産転売によって利益を得ていたのならば、支援対象としては問題がありますが、賃貸不動産を保有し賃貸収益から配当金を捻出するシステムで運営されていますので、このシステムに連続性があるのであれば、公的支援に伴う損失リスクも小さくなります。

そして、政策的に最も重要な点は、不動産価格のスパイラル的な下落を防ぐ方策としてもREITが存在している事です。
今の不動産市場では、金融環境の悪化によって、現に利益を生じている良質な賃貸不動産の売買も難しくなっていて、結果としてAクラス不動産の価格も下落傾向にあります。
過去の不動産価格の推移を見れば、天井が落ち始めると連鎖的な下落に陥り止めようがありませんので、これらの良質な不動産を積極的に取得し保有するREITの存在が欠かせません。
REITが良質な不動産をリーズナブルな価格で取得するのであれば、不動産価格全体は適正な範囲で変動しますが、仮にREITが機能停止に陥れば、政策的な手段は殆どなくなってしまいます。
こう考えると、REITへの支援策の第一の目的は、不動産価格の適正な変動を促すことにあります。そして、支援策の恩恵が特定の企業や役員に亙らないのですから、社会的合理性もあります。
最近では、公的支援を受けた金融機関の役員賞与を開示せよという意見も出ているように、国民の税金を使いながら、一般の水準より高い報酬を受ける事に対して批判がありますが、REITの投資法人役員は報酬自体が30~50万円/月ですので、日本の勤労者の平均報酬より低くなっています。

このように考えると、REITへの支援は国民感情的にも社会機能的にも妥当性がありますが、REITのシステムが良く分からない一部のマスコミ等からお門違いの批判もあります。
元々、不動産は国民生活にとって重要なインフラですので、この価値が適正に推移する事が必要です。
REITの本来の狙いは、不動産価格に合理的根拠を与え、更に、高い情報開示によって透明性を高めて不動産の健全化を促すことが目的です。
それでも、従来の色眼鏡で的外れの議論を展開する人達も居ますが、私から見れば、REITや不動産の好調時には提灯持ちのような意見を言っていたようにも記憶しています。
良い時は追従し悪い時には批判するという姿勢は決して中立ではありませんし、大人の言動でもありません。
勿論、今後もREITへの具体的支援策についての批判や議論は必要不可欠ですので、REITへの支援策を無条件に容認する必要はありません。
また具体的支援の段階では難しい面もあるため、今後の展開は注意深く見ていくことも必要ですので、更に議論が沸き上がることを期待したいと思います。

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