ニューシティ・レジデンス投資法人の民事再生申請/REITアナリスト 山崎成人
平成20年10月9日、ニューシティ・レジデンス投資法人から、突然、民事再生法申請及び受理の発表がありました。
発表された内容では、今月末までに取得予定の決済資金が調達出来ない事と返済期限が10月17日に到来する短期借入金の返済不能が理由として記されています。
前者は、平成19年12月18日に売買契約を締結した「(仮称)ニューシティレジデンス池袋プレシャスタワー」の引渡し期日の到来による売買代金27,691百万円の事を指しています。
後者は、中央三井信託・三井住友銀行・あおぞら銀行・千葉銀行の4行から平成19年10月19日に調達した短期借入金45億円の返済(10月17日に一括返済予定)の事です。
何故これが民事再生法申請に繋がったのか明確ではありませんが、筆者の推測では、主たる原因は、ニューシティレジデンス池袋プレシャスタワーの売買契約ではないかと思われます。
277億円の売買代金はレジデンスとしてはかなり大型物件ですので、当然この取得資金の調達目途がなければこの契約はしません。
恐らく、昨年の12月時点では、物件取得に併せて増資を行う目論見であったと思われます。(平成19年11月に実施した第2回増資は517,440円/口で約207億円を調達している)
一方、発表では売買代金の借入が出来なかったと記載されていますが、仮にこの金額を全額借り入れると、瞬間的なLTVは60%を越える可能性もありますから、昨年の12月時点では増資が必須であったと思われます。
然しながら、その後投資口価格が下落し増資環境が悪化した事で、増資という選択肢がなくなり、止むを得ず、一旦借入金で繋ぐ手法に転換したと考えられますが、今度は金融機関が融資を渋ります。
池袋という立地で404戸の賃貸専用マンションを予想NOI利回り4.5%程度で取得しようという案件に、金融機関が慎重になるのは今日の不動産状況では当然だとも言えます。
従って、借入が出来なければ、売買契約を解約するしか方法はありませんが、解約には最低でも2割の違約金(約55億円)が必要になります。
これを内部留保のない投資法人が支払うには、約2期分の当期純利益を注ぎ込むしかありませんが、そうなれば最低でも2期は無配になります。
さすがに、投資家に対して、売買契約解約違約金を支払うために2期無配とすると発表出来ませんから、結局は民事再生法を借りて何とか精算するしかありません。
次に、民事再生法申請により、借入金の期限の利益は喪失されますから、金融機関からは元利金全ての返済が求められます。
平成20年9月30日現在の借入金は投資法人債を含めて約983億円ですので、この元金と利息が主たる返済債務となります。
但し、借入金のうち、担保を提供しているのは17,350百万円ですので、全ての保有物件が直ちに金融機関に移る訳ではありません。
それでは、民事再生法によりどうなるのかが問題です。
実は投資法人の営業キャッシュフローは常に黒字ですし、DSCRも08/2月期では5.3ありますので、利払い能力は充分にありますから、取り敢えず返済期限まで通常の利払いを行うという交渉を始めると考えられます。(借入先は全て金融機関でノンバンクはありません)
問題は期限が到来する45億円の短期借入金ですが、これは手持ち現金による一部返済で凌ぐ事も考えられます。
勿論このような方法を採るには金融機関の協力が必要ですが、現体制では無理なので民事再生法申請という選択になったと考えられます。
それでは、肝心のエクイティ(出資者)はどうなるか。
最良でも売買契約解約金相当を支払うまでは無配となりそうです。
次に、投資口の価値についてですが、強引に保有物件を叩き売れば、エクイティは限りなくゼロに近づきますが、稼動していて利益を計上している物件を今の不動産市場で叩き売るのは愚策ですので、このような手段は採らないと考えられます。
こうなると、ニューシティレジデンス投資法人の出資者は、そのまま塩漬けにして今後の推移を見るという判断が良いかも知れません。
ベストシナリオは新たな資産運用体制で再出発して、時間を掛けてエクイティの価値を取り戻す事ですが、投資法人の仕組みから見れば、一般事業会社よりそれは容易です。
それでも投資家は納得しないだろうと思いますが、今回の投資法人の破綻は、ニューシティレジデンス池袋プレシャスタワーの取得が直接の原因だと考えられますので、この取得判断の適否が問われます。
昨年12月時点での取得判断の適否は微妙ですが、不動産市場は既に9月から軟調の兆しが見えていましたので、08年のトレンドをどう見るかがポイントになります。
勿論、結果論では何とも言えますが、仮に筆者であれば、不動産市場とエクイティ市場がどのような状況であっても、池袋で404戸の大型賃貸マンションは取得しません。
恐らく、長年賃貸マンション市場での経験を積んだ人であれば同じ判断だと思いますが、資産運用会社はその様な判断を行わなかったとだけ言えます。
不動産は誰でも取得出来ますが、買わないという判断を出来るか否かが肝要なのです。
周囲に押し切られて仕方なく買うというのが最も悪い結果をもたらすのは、長年の経験で嫌という程見てきましたので、今回のケースを他山の石として他の資産運用会社も一層気持ちを引き締めて欲しいと願っています。
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